東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)10号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の本件審決の取消事由について検討する。
1 取消事由(1)について
成立に争いのない甲第五号証(引用例明細書及び図面)によれば、引用発明の延展装置についてその発明の詳細な説明の欄には、「上張り(2)および(3)は、混合物の膨張期間中、それを包含する被覆物の役をする。シート(2)および(3)は、たとえば第一成形手段を構成する特殊な形状をなす両表面(4)および(5)の間を延びており、これにより混合物はシート上に展布され成形される。」(甲第五号証(2)頁右下欄一四行~(3)頁左上欄四行)と説明されていることが認められる。右説明によれば、特殊形状の表面5をもつ上方の第一成形手段(引用発明のプレート)が延展装置であることは明らかである。そして、引用例の図面(別紙(二))によれば、図面上引用発明のプレートの中央部に縦線が引かれていることが認められ、この縦線が引用発明のプレートを二つの部分に区分けする場合の表示法に一致することは被告主張のとおりである。しかし前掲甲第五号証によれば、引用例明細書には、引用発明のプレートが二つの部分からなる旨の記載はなく、また引用発明のプレートが二つの部分からなるものでなければ混合物(発泡体原料)の展布、成形をなし得ない旨の記載もなく、引用発明のプレートが二つの部分からなることによる作用効果の記載もないことが認められる。そうすると引用発明のプレートは、二つの部分からなることの技術的意義をもたないものであると認められるから、実質上一枚のプレートに相当するといわざるを得ない。したがつて、引用例の図面に、引用発明のプレートの中央部に縦線が引かれている事実のみをもつて、上側に配置された特殊形状の表面(引用発明のプレート)が、シートの長さ方向に対して二つの部分で構成されているとした本件審決の認定は誤りといわなければならず、同旨の被告の主張は採用できない。
2 取消事由(2)(3)について
上下二面のシートに挟まれた発泡体原料を胴体とする合成材料パネル製造装置の連続コンベアベルトの入口側に配置された上側のシートを抑えつけるレベリング装置において、ロール又は傾斜設置されたプレートを振動体として使用することが本願出願当時公知の技術的事項であつたことは原告の自認するところである。そして、成立に争いのない甲第六号証(周知例)によれば、右技術的事項が本願出願当時周知であつたことが認められる。そうすると、前記合成材料パネル製造装置の連続コンベアベルトの入口側において、発泡体原料を延展させ上側のシートを抑えつけレベリングする装置としてロールと傾斜設置されたプレートとが同等の機能を果たす装置として当業技術者に把握されていたことが認められる。しかしながら、前掲甲第六号証によれば、周知例の図面(別紙(三))の第3図に示されたものは、一つのロールからなる延展装置であることが認められるから、傾斜設置されたプレートと同等の機能を有する装置として本願出願当時当業技術者に把握されていたロールは、一個のロールからなるものであつて、これを直ちに複数のロールからなるものとすることはできない。
そうすると、引用例記載の合成材料パネル製造装置の前叙の実質上一枚のプレートからなる延展装置を一個のロールからなるものに代えることは当業技術者が極めて容易になし得ることと認められるが、それを複数個のロールからなるものに代えることは、右一枚のプレートと複数個のロールとが延展装置としての作用効果において格別の差異がないものと認められない限り、当業技術者が極めて容易になし得ると認めることはできない。
ところで、前記当事者間に争いのない本願考案の実用新案登録請求の範囲及び成立に争いのない甲第二ないし第四号証(本願願書、昭和五七年七月五日付、昭和六〇年八月一六日付各手続補正書)によれば、本願考案は「常温または僅かな加熱で硬化可能な合成樹脂からなる発泡体の製造装置に関するもの」(甲第二号証一頁一五、一六行)で、本願明細書の考案の詳細な説明の欄には、周知例等に開示されている従来の合成樹脂発泡体の製造装置に設けられた延展装置の欠点について、「幅方向へ延びる単一のナイフ状またはロール状の部材で構成されているか、或いはブロツク状の部材で構成されているものであつて、前者の構成では全幅に亘り均一厚さに拡げることができず、また後者の構成では摩擦が著しく大きく裏張材を損傷させ或いは生成した泡を潰して消滅させる必配があり、高品位の製品を得ることができない。」(甲第三号証一頁九行~二頁一行)と説明され、これに対し、本願考案が延展装置を実用新案登録請求の範囲記載の構成をとつたことによる効果について、「発泡体原料が幅方向に局部的に供給され或いは全体に供給されていても厚さむらを有するような場合、遅くともタツクフリー期の初期までに延展装置の下を通過させ」(甲第二号証一一頁四行~八行)「ることによつて複数個の転子が少しずつ幅方向へ押し拡げ、しかも発泡体原料の厚さが拡げられるに従つて薄くなつても転子は移送装置との間隔が次第に小さくさせられているので確実に押し拡げて均一厚さの所定幅に拡げることができ」(甲第三号証三頁一二行~四頁一行)、「転子は発泡体原料の移送に伴つて転動するので摩擦が殆んどなく、裏張材を損傷させないばかりか、発泡が開始していても発泡体原料は各転子の下を瞬間的に通過するため気泡が潰されるという必配がなく、次で」(同四頁一行~六行)「この状態で型の内部で発泡膨張させることにより密度むらのない」(甲第二号証一一頁九、一〇行)「しかも気泡が球形または上下に少し長い卵形を呈し圧縮強度にすぐれた」(甲第三号証四頁七行~九行)「発泡体を得ることができ」(甲第二号証一一頁一〇、一一行)、「低密度の部分が所要発泡度となるように予めむらを見込んで過剰の発泡体原料を供給するという無駄がなくなり、且つ難燃剤等の添加物を混合したときもその分散状態を」(同一一頁一一行~一五行)「均一ならしめ」(甲第四号証二枚目三行)、「発泡体原料が発泡を開始した時期に転子からなる延展装置を通過するので気泡は瞬間時に圧縮されるにとどまり、ブロツク状の延展装置を用いたときのように長い時間に亘り圧潰して互いに連続し長手方向に偏平な気泡を作り或いは消滅させるということがなく、真球状の気泡が均一に分散し従つて機械的強度が安定しているとともに断熱性にすぐれた」(同三行~一一行)「均質な製品を得ることができる」(甲第二号証一一頁一五、一六行)と説明されていることが認められる。本願明細書の右説明によれば、延展装置がブロツク状の部材で構成されているものは、摩擦が著しく大きく裏張材を損傷させ或いは生成した泡を潰して消滅させる欠点があるのに対し、本願考案の構成のものは、<1>摩擦がほとんどなく、裏張材を損傷させないばかりか、<2>気泡が潰されるという心配がなく、密度むらのない、しかも気泡が球状又は上下に少し長い卵形を呈し圧縮強度に優れた発泡体を得ることができるという効果を奏し、また、一個のロールから構成されているものは、発泡体原料を全幅にわたり均一厚さに拡げることができない欠点があるのに対し、本願考案の構成のものは、<3>均一厚さの所定幅に拡げることができ、低密度の部分が所要発泡度となるようにあらかじめむらを見込んで過剰の発泡体原料を供給するという無駄がなくなるという効果を奏すると認めることができる。そして、引用発明のプレートは、前叙のとおり実質上一枚のプレートから構成されているものであり、前掲甲第二ないし第四号証及び甲第六号証によれば、前記本願明細書の従来技術の説明中の「ブロツク状の部材」とは、周知例の第4図(別紙(三)参照)の「傾斜設置されたプレート」を指していることは明らかであるから、引用発明のプレートは前記「ブロツク状の部材」に相当するものと認められる。そうすると、本願考案の延展装置は、引用発明の延展装置に比し前記<1><2>の特段の効果を奏するものということができるから、引用発明のプレートの代わりに複数個のロールからなる延展装置とすることは、当業技術者にとつて極めて容易になし得るとすることはできない。
被告は、本願考案の実施例では、延展装置の転子に裏張材が巻掛けられ張力がかかつていて弛緩することがないから、発泡体原料は裏張材によつても押圧され、本願考案と引用発明による気泡の形状に原告主張のような差異はない旨主張し、しかして、発泡体の製造において、裏張材を使用することが周知の事項であることは当事者間に争いがない。しかし、前掲甲第二ないし第四号証によれば、本願考案の実施例では、「可撓の裏張材53を巻芯20から解出し延展装置9に巻掛けて型7の方へ引張り移送させる。」(甲第二号証七頁五行~七行)と記載されていることが認められ、右記載及び甲第三号証の図面(別紙(一)参照)の第1図及び第4図並びに本件口頭弁論の全趣旨によれば、裏張材は、紙、合成樹脂フイルム、金属箔等の可撓性のものであり、巻芯に巻付けられているものであるから、当然ある程度軟かい材質のものと認められる。そうすると、裏張材に転子間である程度の張力がかかつているとしても、プレートや転子そのものの直下とは異なり、発泡体に対する押圧力は自ら異なると認められる(前掲甲第三号証の図面の第1図・第4図中の被告指摘部分は略図にしかすぎないから、前記認定を左右するものではない。)。したがつて、気泡の形状に原告主張の差異がないとは認めることができないから、裏張材の存在を根拠とする被告の右主張は採用できない。
また、被告は、発泡体原料は、延展装置を出た後も発泡膨脹するから、延展装置の下を通過する段階で形成された気泡の形状が、そのまま最終形状となることはなく、最終製品の泡の形状に原告主張の差異はない旨主張するところ、延展後にも発泡膨脹があることは原告の明らかに争わないところであるけれども、延展装置の相違による発泡作用の差異が最終製品の泡の形状及び発泡体の圧縮強度に影響を与えないことを証明する証拠はないから、被告の右主張も採用できない。
以上のとおり、本願考案が引用発明から極めて容易に考案をすることができたということはできず、これを極めて容易とした本件審決の判断は誤りであり、違法として取消を免れない。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容する。
〔編註その一〕 本願考案の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。
「二つの上下に配置された無端の型部材1、2が向い合つた部分において同一方向へ駆動させられ且つこの型部材1、2で挟まれた空間が成形用の型7を形成し発泡体原料がこの型7の中で発泡膨脹する発泡体の製造装置において、前記型7の入口側前方において発泡体原料を載せて型7へ送る移送装置8の上方に接近させて発泡体原料を幅方向へ押し拡げる延展装置9が設けられ、この延展装置9は移送装置8を横切る方向に延び且つ型7へ向つて移送装置8との間隔が次第に小さくなるように配置された複数個の転子33、34、35によつて構成されていることを特徴とする発泡体の製造装置」(別紙(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙(一)
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(以下省略)